映画「はりぼて」公式サイト » 監督の言葉

五百旗頭幸男 いおきべ ゆきお

兵庫県生まれ。スポーツ記者や警察担当などの記者経験を積み、2016年から2020年3月まで夕方のニュース番組キャスターを兼務。見た目は穏やかだが、舌鋒鋭く、これまで数々の社会問題について不正を追及してきた。趣味は休日に子どもとスキーに行くこと。

かつて、議会をチェックし不正を暴き続けた私たちメディアは、期せずしてその姿を見失いました。

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不正が発覚しても、責任を取らなくなった市議たち。彼らにぶつけた厳しい言葉の数々が宙をさまよい、無力感となって戻ってきました。「はりぼて」があぶり出すのは、議会と当局の姿だけではありません。それらを許し、受け入れてきたメディアと市民を含む、4年間の実相です。

 私が退職を告げたシーンをめぐっては、制作陣で数日間の議論になりました。口を挟まず結論を委ねました。

「自分たちのかっこいい姿だけを描いても信頼は得られない。それこそ、はりぼてだ」

「弱さを隠さずに見せることは強さを示すことでもあり、再生につながる」

 信頼を寄せる人たちを傷つけ、彼らの覚悟と信念に背中を押され、この映画は生まれました。胸に広がった鈍い痛みは消えそうにありません。「はりぼて」の矛先は、実は自分自身にも向けられていたのです。

五百旗頭幸男

砂沢智史 すなざわ さとし

富山県生まれ。営業や編成のデスク勤務を経て2015年春から報道記者に。まじめで素直でとにかくしつこい。コンピューターに精通し、数字にめっぽう強い。変化球が投げられず、取材も人付き合いも常に直球勝負する。趣味はバスケットボール。

 富山市議会の不正問題は発覚から4年が過ぎました。
辞職した市議は裁判をへて、新たな人生をスタートしています。

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そんな中、今これを映画として世に出し、彼らの過去を掘り返すことは許されるのか?

その悩みは今も抱えています。

富山県は全国一の自民党王国。県内の市町村議会や県議会においては自民党単独での議案の可決が可能で、その勢力は圧倒的です。それは、「1強他弱」と呼ばれる国政を表す縮図と言えます。

 「はりぼて」で描いたのは「人間の弱さ」です。絶大な権力を振るった市議会の「ドン」は、辞職後に自らの不正を告白します。「遊ぶ金が欲しかった」その告白は生々しいものでした。

高い志を持って政治家になっても、組織の論理に押し流されてしまう現実もある。市民から見られている緊張感がなければ心は緩み、甘えや驕りを生む。

地方議会への関心を高め、市民生活の向上につなげたい。

この映画がそのきっかけになればと願っています。

砂沢 智史